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目の病気 目の病気の原因や症状、治療法などを解りやすく説明いたします。

加齢黄斑変性

高齢者の眼底中央部に加齢性の変化として発症し、物が歪んで見えたり、視野の真ん中が暗く見えたりする病気です。

加齢黄斑変性とは

加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)は、「白内障」や「緑内障」「糖尿病網膜症」といった他の目の病気と比べると聞き慣れない病気かと思います。実際、20年程前は眼科医の間でも、「日本人には極めて稀で、欧米人に多い病気」と考えられていたくらいです。

ところが最近、この病気にかかり、視力が低下するご年輩の方が増えています。福岡県久山町の一般住民を対象に行われた調査では、重症の視力障害をきたすタイプの加齢黄斑変性(滲出性加齢黄斑変性)は50歳以上の住民の0.67%にみられ、日本の人口に換算すると約32万人が罹患していると推定されています。

加齢黄斑変性による視力低下は進行性で、しかも低下した視力を元どおりの状態に回復させることができる治療法はないのが現状です。視力の低下を最小限にくい止め、視力の維持・向上にその効果が欧米で実証されている「光線力学的療法 photodynamic therapy(PDT)」が厚生労働省の認可を受け、平成16年春から日本においても行えるようになりました。大塚眼科では光線力学的療法の実施に向けいち早く準備し、治療を開始いたしました。

黄斑とは

加齢黄斑変性についてお話する前に、まず黄斑とは眼球のどこに位置するのか、どのような働きをしているのかについてお話することにいたします。

眼球をカメラに例えると、フィルムに相当するのが網膜です。網膜は眼球内面の約1/3を裏打ちする神経の膜で、光を感じる視細胞が網膜外層(脈絡膜側)に1列に並んでいます(図1、2)。視細胞に届いた映像は、視神経などを経て脳へと伝えられ、目の前にある物が何であるかを認識することとなります。

図1 眼球断面図図2 眼球壁組織

図3 眼底写真この網膜の中央部分を黄斑と呼んでいます(図3)。映像を写し取るというフィルムの役割をしている網膜の機能は、網膜の中央部分(すなわち黄斑)が最も優れており、そこからわずかにずれただけで機能は急速に低下します。ですから外界の物体をよく見ようとする時は視線をそちらに向け、黄斑にその映像が写るようにするわけです。

黄斑の中央部分を中心窩(ちゅうしんか)といい、網膜機能が最も優れている場所です。カメラのフィルムと網膜の大きな違いは、外界の物体を写し取る能力がフィルムではどの部分でも一様ですが、網膜では中央部分だけが良好だという点です。加齢黄斑変性では網膜の中でも機能の優れた部分に病変が生じてしまいます。

視細胞、網膜色素上皮細胞、ブルッフ膜、脈絡膜

黄斑ともうひとつ、加齢黄斑変性を理解していただくための予備知識として知っておいていただきたい目の中の名称があります。視細胞、網膜色素上皮細胞、ブルッフ膜、脈絡膜です。図1のように眼球の壁は3つの膜から出来ています。目の内側から網膜、脈絡膜、1番外側が強膜(白目と呼ばれる部分)です。

網膜は10層に分けられますが、最外層(脈絡膜側)が網膜色素上皮層です。網膜色素上皮層のすぐ内側に視細胞層があり、網膜色素上皮細胞は視細胞の新陳代謝(栄養状態)に大切な働きをしています(図2)。ですから網膜色素上皮細胞が障害されると、視細胞も障害を受けます。

ブルッフ膜は網膜色素上皮層と脈絡膜に挟まれ、両者を境界する膜です(図2)。

加齢黄斑変性の症状

さて、以上から考えると、黄斑が障害されるとどんな症状がみられるのでしょうか。フィルムの中央部分のみが障害されるのですから、「真ん中は見えないけれども周囲は見える」ということになります。この症状を中心暗点と言います。また物が歪んで見える変視症も現れます。

加齢黄斑変性の分類

図4 ドルーゼン加齢黄斑変性は高齢者の黄斑に、網膜色素上皮細胞、ブルッフ膜、脈絡膜の加齢変化を基盤として発症する疾患です。初期には黄斑部網膜色素上皮の色素異常や、網膜色素上皮とブルッフ膜との間の限局性沈着物であるドルーゼンがみられます(図4)。この時期を「加齢黄斑変性症 age-related maculopathy」と呼んでいます。この時期では自覚症状がないか、あっても軽度の視力低下を自覚する程度です。

さらに病変が進行した後期を「加齢黄斑変性 age-related macular degeneration」と呼び、萎縮性加齢黄斑変性と滲出性加齢黄斑変性の2タイプに分けられます。

初期 加齢黄斑変性症
(age-related maculopathy)
色素上皮の色素異常
色素上皮とブルッフ膜の間に沈着物(ドルーゼン)
後期 加齢黄斑変性
(age-related macular degeneration)
萎縮性加齢黄斑変性
境界明瞭な円形・だ円形の色素上皮の変性・脱落、
色素沈着・脱色素、地図状萎縮巣
滲出性加齢黄斑変性
色素上皮下または色素上皮と視細胞の間の脈絡膜新生血管(CNV)

図5 萎縮性加齢黄斑変性萎縮性加齢黄斑変性は、黄斑にみられるドルーゼンと、境界明瞭な円形・だ円形の網膜色素上皮の変性・脱落や、網膜色素上皮の色素沈着・脱色素、および地図状萎縮巣を特徴とします(図5)。症状の進行はゆっくりで、萎縮巣が拡大し中心窩に及ばない限り、高度の視力障害には至りません。

図7 脈絡膜新生血管図6 滲出性加齢黄斑変性一方、滲出性加齢黄斑変性は、黄斑の網膜色素上皮層の下、あるいは網膜色素上皮層と視細胞層の間に、脈絡膜血管由来の新生血管「脈絡膜新生血管 choroidal neovascularization(CNV)」が発育し、黄斑に出血や血液成分の滲出が生じます(図6、7)。

その結果、中心視機能の障害をきたし、著しい視力低下や中心暗点、変視症などの自覚症状が出現します。滲出性加齢黄斑変性は我が国では男性に多くみられ、男女比は約4対1と報告されています。

加齢黄斑変性の病因・病態

図8 加齢黄斑変性の発症メカニズム加齢黄斑変性が生じる原因や進行過程について、完全に解明されているわけではありませんが、現在のところ次のように考えられています。

視細胞の新陳代謝で生じる老廃物は、網膜色素上皮細胞で消化されます。しかし、加齢により網膜色素上皮の働きが低下すると、未消化の老廃物がブルッフ膜にたまり、ドルーゼンと呼ばれる沈着物となります(図8)。老廃物は慢性の弱い炎症を持続させ、網膜色素上皮細胞の変性・脱落を誘発します。これが進行すれば萎縮性加齢黄斑変性となるわけです。

一方、弱い炎症反応が持続すると、種々の細胞がサイトカインと呼ばれる化学物質を産生・放出します。サイトカインの中には、血管の発生を促す作用を有するものもあり、その結果、脈絡膜から新生血管が発生します(図7)。

脈絡膜新生血管は、ブルッフ膜の下にあるうちはあまり増殖しませんが、一度ブルッフ膜を突き破って網膜色素上皮の下まで侵入してくると、急に増殖し始め、出血や血液成分の滲出が激しくなり、黄斑機能の低下が生じ、永続的に重篤な視力障害となります。これが滲出性加齢黄斑変性です。

加齢黄斑変性の治療

現在のところ、萎縮性加齢黄斑変性に対する有効な治療法はありません。脈絡膜新生血管を有する滲出性加齢黄斑変性のみが治療の対象となっています。

滲出性加齢黄斑変性に対する治療は、まず造影剤を使って検査を行い、脈絡膜新生血管の場所や大きさを判定することから始まります。

脈絡膜新生血管が中心窩から離れた場所にある場合

脈絡膜新生血管をレーザー光線で閉塞させる、「光凝固術」を行うのが一般的です。レーザー光照射により脈絡膜新生血管が閉塞すると、病状の進行は止まり、中心窩の機能を保つことができます。しかし、レーザー光照射により、脈絡膜新生血管とともに網膜も障害されてしまい、見つめている物体のすぐ横に、常に全く見えない部分(暗点)が生じてしまいます。また、脈絡膜新生血管の勢いが激しければ、光凝固で脈絡膜新生血管を閉塞できないこともあります。また、一度脈絡膜新生血管がなくなっても再発することもあります。

脈絡膜新生血管が中心窩に達している場合

中心窩を含む病変部位を光凝固すれば、永続的に高度の視力障害が残ってしまいます。欧米では、このような症例に対する「光線力学的療法 photodynamic therapy(PDT)」の有効性が実証され、多くの患者さまに施行されています。また、日本でも厚生労働省の認可がおり、平成16年春より行うことが可能となりました。

大塚眼科病院より

加齢黄斑変性では、脈絡膜新生血管が中心窩に発生すると、高度の視機能障害が生じる可能性が危惧されます。ですから「中心窩に及んでいない脈絡膜新生血管を発見する」ことが重要です。それには早期発見しかありません。病気の発見が早期であれば、脈絡膜新生血管は小さく、中心窩に及んでいない可能性があります。中心窩に達していなければ光凝固を行い、かつ治療による暗点の出現を最小限に食い止めることができ、視力の維持・改善の可能性も高まります。また、中心窩に及んでいても光線力学的療法で治療ができますが、脈絡膜新生血管の大きさが小さなものほど有効ですので、この場合も早期発見・早期治療が治療成績を向上させます。

早期発見のために、変視症や視力低下を自覚したらすぐに眼科を受診してください。また、50歳を過ぎたら、瞳から目の奥をのぞいて病気がないかを調べる眼底検査を受けられることをお勧めします。ドルーゼンのような脈絡膜新生血管の発生に関与する病変が見つかった場合は、定期的な眼底検査を行うことが、早期発見・早期治療につながります。

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