目の病気 目の病気の原因や症状、治療法などを解りやすく説明いたします。
網膜静脈閉塞症
網膜静脈閉塞症は、眼の網膜という部位を流れる静脈と呼ばれる血管がつまる(閉塞する)病気です。
網膜静脈分枝閉塞症(Branch Retinal Vein Occlusion, 以下BRVO)
BRVOは、閉塞した静脈が網膜のどの部位にあるかによって症状が違います。従って、治療法も異なってきます。
網膜の中央、すなわち黄斑部を潅流する静脈が閉塞した症例
- 症状
- 黄斑部に出血が及ぶため視野欠損を自覚したり、黄斑部網膜が腫れ黄斑部網膜機能が低下することにより、視力が低下します。従って、発症後早期から自覚症状が現れます。網膜出血は、経過にともない自然吸収され、発症後1年ほどでほぼ完全に消失します。
- 視機能の経過を左右するのは黄斑部の浮腫です。黄斑浮腫の持続が視機能を悪化させます。一般的に黄斑浮腫は、BRVOの発症から少し遅れて発生します。症例によっては黄斑浮腫は、BRVOの発症後3ヶ月ほどで自然に消退、治癒します。この場合は浮腫の持続期間が短く、浮腫による網膜機能の障害が軽微であり、視機能障害も比較的軽度にとどまります。最高矯正視力が0.5程度にとどまったり、直線が多少歪んで見える後遺症は残ります。現在のところ、全く後遺症を残さずに治す治療法はありません。
- 一方、黄斑浮腫が自然消退しない症例では、浮腫の残存により黄斑部の網膜機能は持続的に低下し、その結果、視機能の低下が続きます。
- 治療
- 光凝固(レーザー治療)
- 1984年、アメリカで行われた多施設共同研究(Branch Vein Occlusion Study Group,BVOS)では、発症後3ヶ月から18ヶ月以内で黄斑浮腫により最高矯正視力が0.5以下に低下した症例に対し、黄斑部に光凝固を施行し、視力表で2段階以上の視力改善が65%の症例でみられ、一方、無治療で経過を観察した症例では37%であり、黄斑部光凝固の有効性が実証されました。
- 硝子体(しょうしたい)手術
- 最近の傾向では、BRVO黄斑浮腫に対する治療として、光凝固に代わり硝子体手術を第一選択とする報告が増えています。その理由には色々な事柄が上げられますが、光凝固による治療効果が期待されるほど十分ではないことも一因となっています。硝子体手術については、光凝固で行われたような症例数が多く、かつ自然経過との視力変化を比べた研究結果はありません。これまでの報告では、硝子体手術により黄斑浮腫の消退が促され、視力の維持、改善が期待出来るようです。
- 図5(A、B)は、当院で行ったBRVO黄斑浮腫に対する硝子体手術の術後成績で、各症例の術前と術後1年の黄斑浮腫で肥厚した網膜厚および視力の変化を示しています。多くの症例で黄斑浮腫が改善し(図6)、視力も向上しているのがわかります。
- 硝子体(しょうしたい)手術の当院での治療成績
- BRVOに伴う黄斑浮腫に対する硝子体手術を施行し、1年以上の経過観察が可能であった56例56眼(45歳〜84歳、平均年齢70歳)の治療成績を示します。
- 図7と8は、術前と術後の黄斑浮腫で肥厚した網膜厚および視力の変化を示しています。
- 術前の黄斑部網膜の厚みは、平均で584マイクロメートルと著しく肥厚しており(正常は約250マイクロメートル)、術後は平均で280マイクロメートルと改善しました。術前の視力は、平均で0.20でしたが、術後は平均で0.43と改善しました。
- トリアムシノロン投与
- トリアムシノロンという薬剤を眼球壁の周囲や直接、眼球内に投与することにより、黄斑浮腫の消退が促され、数年前には良く行われた治療法です。しかし、投与後3ヵ月ほどで黄斑浮腫は再発し、しかも繰り返しの投与により、一時的に得られる黄斑浮腫消退効果も減弱することが分かってきました。硝子体手術と比べ手軽に行うことができ、患者さんの負担も少なく、現在でも行われています。
黄斑部から離れた網膜を潅流する静脈が閉塞した症例
- 症状
- 黄斑部の網膜機能が正常なため、発症しても気がつかないことが多いようです。しかし、閉塞静脈が比較的太く、広い範囲の網膜で血流障害が生じると、発症後数カ月から数年後に、健常な網膜と静脈閉塞した網膜との境界付近に新生血管が発生することがあります。網膜新生血管は破綻しやすく、出血は硝子体(図1)に拡散します。硝子体出血が少量なら、点状や雲のような影が浮遊する飛蚊症を自覚しますし、出血が大量なら視力が低下します。すなわち、このタイプのBRVOでは、網膜新生血管の破綻による硝子体出血が発生して初めて症状を自覚し、病気が発見されることとなります。
- 治療
- 硝子体出血が少量で網膜の観察が容易なら、閉塞した静脈が潅流する網膜に光凝固を行います。光凝固は新たな新生血管が発生するのを予防するとともに、既に存在する新生血管の活動性を低下させることが目的です。光凝固により、硝子体出血の消退が促されるわけではありません。網膜の観察が難しいほどの大量の硝子体出血が発生した場合は、自然に吸収されるのを期待して、まずは数週間、経過を観察します。硝子体出血の消退が思わしくない場合は、硝子体手術を行います。手術では、硝子体出血を除去し網膜新生血管を処理するとともに、術中に光凝固も行います。現時点では、網膜新生血管や硝子体出血に対する有効な薬物療法はありません。